尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

映画

久しぶりの独白スタイルは平凡かつ快適 刺激抑え目のフィンチャー節は健在で今回はアクションも良し デヴィッド・フィンチャー:ザ・キラー

新作が出たとのことでネトフリを1か月契約して観た。感想としては、好きだし面白いのは前提として、画作り贅沢さそのままにちょっとしたおふざけが、完璧主義者フィンチャーもさすがに年取っていい感じに力抜けたんだな、というところ。セブンやファイトクラ…

ギャグもキレてるが「カッコいい」がつまったSF時代劇 本郷みつる:映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望

SFとのファーストコンタクトは、映画クレヨンしんちゃんだった。 BTTFでもスターウォーズでもなくターミネーターでもない。なんならスターウォーズもしんちゃんのパロディである通常放送のスペシャル回、クレヨンウォーズ(ライトセーバーを股間に挟んでたた…

近代文学の金字塔で我が邦の宝 読める幸せをかみしめまくり 川端康成:雪国

こういう小説が書ければもう満足でしょう。私も何億歩も後ろにいますが、先にこういうものがあると思って歩いてます。 SF小説などを読んでいるとダイレクトな表現とあきさせないテンポに慣れてなんとなく読めなくなってくるよね。自分でもバランスが崩れてい…

みんな~! みんなも林の中の象のように歩もう~! 押井守:イノセンス

『押井の「イノセンス」という映画はだねぇ!引用でできているんだよ!そもそも押井映画と言うのはだね…』 と飲み会でいっちゃう押井スノッブ野郎には気を付けよう!得しないから付き合いを考えたほうがいいよ!そっと離れて孤独にしてあげよう。これから始…

シスターフッド邦画の決定版 コミュニケーションの希望に満ちた橋のシーンは映画史に残る 岨手由貴子:あのこは貴族

山内マリコ原作の同名小説の映画化。劇場であまりの脚本の省略の上手さに惚れ、Blu-rayすぐ予約しました。邦画のクソ高いBlu-rayの新作を予約してしまうなんて、大貧民だと自認していた私も貴族の仲間入りなのである。貴族だからブックオフには売らない。た…

個人的好みの集合体 ただ面白くはない ドゥニ・ヴィルヌーヴ:ブレードランナー2049

ヴィルヌーヴのベストだと思うし、個人的にもベストに近い作品だと思うのだが、別に面白くはない。カタルシスが無い(この指摘するやつ最悪だけど)って言われちゃうと、まあ~そうだね、としか言いようがない。じゃあなんで今日私はブレードランナー204…

超絶美少年性欲爆発物語 イエジー・スコリモフスキ:早春

さいきんブルーレイになってみんな見れるようになった名作映画。 小津のほうじゃないですよ。 俳優の魅力で引っ張っていく映画ってあまり好みではないのだが、このレベルになるともう好き。主役二人が普遍的な美男美女なので今観ても眼福でしかない。正直映…

映像化すると退屈になるミステリをどうやるのか その最適解 市川崑:犬神家の一族

市川版金田一耕助の映画シリーズは、だらだら続くシリーズものが大嫌いときている私が一番好む映画群である。 まず市川崑という監督。この人はふざけているのかと思うほどカット割りのテンポが早い。岡本喜八、庵野秀明、「ファイトクラブ」のD,フィンチャー…

超理詰めホラーなのに ちょい笑える アリアスター:ヘレディタリー 継承

アリアスターはん!もしかしてオタクも伊藤計劃チルドレンでっか?真っ黒な作品の後に真っ白な作品作るなんて、まんま虐殺器官とハーモニーですもんなぁ!構造も似てるし!意識してるのバレバレやで!今度伊藤計劃について新世界で串カツやっつけながら語り…

めちゃめちゃ好きなルックです これからのSF映画のお手本になってほしい一本 アレックス・ガーランド:エクス・マキナ

いやーいいよね、この映画。なにがいいってミニマルな雰囲気。お金もかかってないんでしょう?自分はキャストで映画を見ないのでこういう知らない俳優で構成された映画が好き。やっぱりイメージってありますからね。このルックなんつったらいいんだろう。GAF…

切羽詰まった今こそ必要 享楽と無意味の彼方へ 岡本喜八 筒井康隆:ジャズ大名

酔っぱらいながら見るのが正解の映画。もはややけくその幸福感。脚本としてはオチてないけどこれも映画なのだ。話にオチがないのを嫌がる人には無理かも。むしろそういう人が見てこういうのもありか、なんて思うのも吉。 興行的という点ではアカデミー賞なん…

CGなんか要らないよ シュールな笑いとキレキレの演出 SF映画はここまで来た ヨルゴス・ランティスモス:ロブスター

クオリティ抜群のSFコメディ。 画面レイアウトに関してはヴィルヌーヴと双璧でいい監督。 個人的にはキューブリックの後継者はヴィルヌーヴではなくこの人です。決定的なのは音楽のセンスの有無。(ヴィルヌーヴははやくジマーから離れろ) 映画でいう笑いの…

なにからなにまでイビツすぎ! バランスを放棄した邦画らしからぬパンク時代劇 石井岳龍:パンク侍、切られて候

クオリティーの話をすると、各要素めちゃくちゃなので評価不可能というのが正しい。 少なくとも評価が高くなろうはずがない。一部の好きものしか気に入らない映画です。 ただただ素晴らしい。この映画の存在そのものがうれしい。 これを作った人が日本にいる…

無関心と労働者階級とカトリック 軽いB級映画に重いテーマをぶち込みまくった快作 トロイ・ダフィー:処刑人

自分が腐女子だったとしたら。この映画でアンソロとか二次小説とか作りまくってたんじゃないかしら。なんせイケメン双子兄弟モノである。なにせキャラが濃い。これマンガだよ。大衆向け娯楽である。ハッピーエンドで終わればいいじゃん。なのになぜ最後こう…

リアリズム+そこはかとないエロが超盛り盛りで大満足。内容は貧困なのに高級感あふれる工芸品のような映画 是枝裕和:万引き家族

この映画すげえわ。そらパルムドールとるわ……みんながみんな上手すぎるよ。ちゃんと邦画も進化しているのねん。リアリズムってやっぱ振り切った方がいいんだね。万引きってワードはいわゆるツカミですね。ファーストシーンとしては完璧ですが万引きはこの映…

勇気出してこの作品がもつ「雰囲気」について信者が語ろう 押井守:「スカイ・クロラ」

わたしはこの映画の雰囲気が大好きである。超好き。好き好き大好き。 映画における「雰囲気」。いい加減なことばだけどそれが正しい。ネットに永遠に残るから宇多丸の批評能力の限界を示し続ける映画。宇多丸とは結構波長が合うんだけど。この映画ではまった…

快楽から不快へ真っ逆さま いつにもまして画面が真っ赤なドラッグムービー ギャスパー・ノエ:「クライマックス」

高校生の時「カノン」を観てからずーっと好きだった監督ギャスパーノエ。あらゆるモラルに喧嘩を売る監督ギャスパーノエ。どす黒い赤が何とも不穏なギャスパーノエ。DVD買っても観る気分になかなかなれないギャスパーノエ。(「アレックス」とか買ってもいつ…

一分のスキも無い超上質映画 PTAは天才だ ポール・トーマス・アンダーソン:ファントム・スレッド

私は恋愛映画が苦手だと自認してますが、よく考えたら、オールタイムベストのファイトクラブも羊たちの沈黙も風立ちぬもイノセンスもみんなサブプロットが恋愛映画だな、と最近気がつきました。この映画は恋愛がメインプロットですが本当に素晴らしいよ。万…

安藤サクラすげぇなぁ 前半は完璧な映画 後半はスポ根で二度おいしいけど音楽が邪魔してる 武 正晴:百円の恋

太ったブスからシュッとしたボクサーへと変わる様が本編の白眉。人間の変化をセリフで説明せずに体型や表情で表現するってのはまさに役者の仕事でしょう。尊敬します。この人は底辺っぽい女性の演技がほんとうにうまいわー。っていうかなんでもうまいのか。…

いかにしてキッチュでダサいおじさん的なものから身をかわすか 長久允:ウィーアーリトルゾンビーズ

一つの作品としても、そしてこれからの邦画への影響力を考慮しても、めちゃめちゃいい映画だったと思います。個人的にはシン・ゴジラ以来の大ヒットやで!「カメラを止めるな!」が一の矢だとしたらこの「ウィーアーリトルゾンビーズ」が二の矢かもしれませ…

リンチ作品にしかないものが確実にあるんだけど、それが何かはわからないの デヴィッド・リンチ:ブルーベルベット

若い男の子が息子と夫を人質に取られているメンヘラエロおばさんとエロいことになってしまい、最終的に事件を解決する話です。リンチの中ではかなり観やすい部類の作品だとおもう。ストーリーを普通に追っていけばわかる造りになってます。時系列シャッフル…

ポーカー映画ではフルハウスもっててもオールインしてはいけない シャツの着替えも用意しとこう マーティン・キャンベル:007 カジノ・ロワイヤル

ポーカーとスパイ映画好きとして時々見返したくなる映画。カジノロワイヤルは原作でも第一作なので007のエッセンスが凝縮されてますな。偉大なるマンネリズムといか、まだやってんの?と言われてもしょうがないシリーズなんだけども。もうやることないで…

静のドンパチ映画、主役はもちろん映像、時々デルトロの顔  ドゥニ・ヴィルヌーヴ:ボーダーライン(原題SICARIO)

邦題ダサくするの勘弁してくれ…… この映画はとにかく映像がきれいです。ドゥニ・ヴィルヌーヴは空軍基地をきれいに撮る名人ですね。というか、空軍基地というものがそもそも美しいのかもしれません。抜け感が半端ないので気持ちがいい。 庵野だったりガイリ…

黒潰れ、群像劇構造、良翻訳、音楽、すべてのピースがはまった大傑作  ガイ・リッチー:ロックストック&トゥースモーキングバレルズ

映画における画面の黒潰れを愛している。常に画面の20%くらいはつぶれていてほしい。そんな黒潰れフェチの変態御用達なのが、フィルム・ノワールの映画群、リドスコ、フィンチャー、そして本作です。単に明るいのがきらい。黒目の色がうすい、とか日光が苦手…

愛すべきケレン味、必殺技を叫ぶという事  庵野秀明:トップをねらえ!

おっかない敵があらわれまして、人間が何かしらこまって、誰かしらが、倒す。 というプロットで共有しているのに、アメコミ映画に無くて日本のアニメや特撮だけにあるものはなんでしょ。 それは必殺技の叫びです。 ほんとうに大事なことです。 スパロボをや…

映画の文体破壊とバカバカしさへの愛  クエンティン・タランティーノ:パルプ・フィクション

面白い映画だなぁ。なんで面白いんだろう?わかりません。好きなシーンはいっぱいあるんだけどね。そんな人が多いであろう映画。ジブリ作品に近いかもしれません。情報の質があまりにもほかの映画と違うのです。 カップルが強盗して、チンピラ二人が黒人殺し…

生理的嫌悪感をいかにして演出するか?  庵野秀明:劇場版新世紀エヴァンゲリオン Air/まごころを君に

ええーとすでに私の精神構造に深く入り込み忘れたくても忘れられない作品がエヴァです。中学から高校くらいまでずっと心中はエヴァエヴァしてました。最近はいろいろと好きなものも増えて脳の片隅に追いやられていますが。当時は感性がビンビンだもん。こん…

物質主義の終わりとアナーキィ・ワンダーランド  デヴィッド・フィンチャー:ファイト・クラブ

生涯ベスト映画です。まあとにかくテンポ速い。原作のチャック・パラニュークの語り口はいちいちひねくれていて、暴論故に気持ちがいい。生理的なリズムでしょうね。もっと歳食ったら小津安二郎とか好きになるかもしれませんが。今映像のテンポで一番好みな…