尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

切羽詰まった今こそ必要 享楽と無意味の彼方へ 岡本喜八 筒井康隆:ジャズ大名

 

酔っぱらいながら見るのが正解の映画。
もはややけくその幸福感。
脚本としてはオチてないけどこれも映画なのだ。
話にオチがないのを嫌がる人には無理かも。むしろそういう人が見てこういうのもありか、なんて思うのも吉。

興行的という点ではアカデミー賞なんかよりよっぽど優秀なんだ。
だって気分が盛り上がるじゃないか。イケメンいない、美女ちょっとだけ、エロもグロもない、泣かせない、どんでん返しもない、でも音楽がある。

ええじゃないか、の精神です。

この名作にみんな気が付いたほうがいい。
タモリといい、引きの芸の魅力にみんな気が付かなさすぎなんだ。

俺はほんとに幸せだ。こういう映画があって幸せ。
プロットは超簡単。ていうかしょうもない。

アフリカに帰るつもりだった黒人ジャズプレイヤーと幕末で問題を抱えまくった大名が出会う。
普通の映画だったら、そこで問題をジャズの力で解決してハッピーエンド…となるが、この映画はそうではない。
ただただ登場人物全員が現在の諸問題を徹底的に無視して、ジャズを演奏して享楽にふけり続けるのである。
いわゆる起承転結のうち転結をなんぼのもんじゃい、とばかりにぶん投げた。原作と音楽を担当した筒井康隆の仕業だ。
これができるのは純粋にうらやましい。自由さにあこがれて嫉妬さえする。なんで我々はこんな楽しくないのだ、と。それはまじめだから。
どうしても人間社会ってまじめである。それが嫌なので、こういう映画いっぱい見たいよ。

自由で、暗い意味やテーマをバカにしていたいい時代のほうがいいじゃん、ということです。
バブル時代の上澄みのいいところ。

しかめつらしく、「人生とは」みたいなこと考えてるやつら、あんたら暗いよ。シオランなんか読んでんじゃないよ。ってことです。

乱痴気騒ぎの異常な興奮、ユーモアと音楽、おもろいからタモリ山下洋輔を出してしまえ、な筒井康隆的なセンス。
なにかと理屈ばかりで堅苦しいアフターコロナの世の中にはこういうものが必要だ。
和琴三人女のエロさ。
対する政治、戦争のつまらなさ。洒落のわからぬエリートに政治は任せて我々はふざけたおそう。そんな無責任ゆえの快楽がここにある。

祝祭的享楽。乱痴気騒ぎ。いってしまえば憂さ晴らし。バカ殿以上のカオスな時代劇コメディ。
向井秀徳北野武にもおそらく影響を与えた一本。
横に長い城のあほらしさ。洒落のわかる大人のカッコよさ。

最高潮でエンドロールに入る潔さと切れ味。

ちょっとわけわかんないくらい爽快。

コロナで身も心も委縮してしまった我々に、ほんとうに必要な一本。

 

 

ジャズ大名

ジャズ大名

  • 発売日: 2015/09/21
  • メディア: Prime Video