新作が出たとのことでネトフリを1か月契約して観た。感想としては、好きだし面白いのは前提として、画作り贅沢さそのままにちょっとしたおふざけが、完璧主義者フィンチャーもさすがに年取っていい感じに力抜けたんだな、というところ。
セブンやファイトクラブなど神がかった作品はもう無いにしても、このセンスを定期的に摂取できるならファンとしては幸せである。Mankでキャリアの締めに入ったのかなーと寂しく思っていたのだが、大作とか新しい趣向とかせずにこういうのばっかりやってほしい。Mankはほぼ白黒なので、画面が結構明るかったのだが、今作はちゃんと暗くてなんかゴージャス。
ファイトクラブでやった一人称の独白が特徴の今作、さすがにパラニュークの毒には及ばず、殺し屋である主人公の考えていることは結構陳腐でありきたり。主人公は起きるすべてをコントロールしようとしているが、ちょいちょいミスって現実のカオスに面食らいながらもギリギリ対応する。
そもそもこの映画は結構しょうもない人だらけで、原作がコミックとはおもえないほどにキャッチーなキャラが出ない。(個性の塊みたいなティルダ・スウィントンでさえ、つまんない女にしてあるのでわざとだろう)
殺し方もものすごくよく言えばリアル志向、悪く言えば平凡で、クールな殺し屋のクールな殺しって感じではない。というか主人公はあまりおしゃべりが上手ではなく、気の利いたことが言えない。ボンドでもスーパーヒーローでもない。
シナリオも仕事ミスった殺し屋が消されかけたので、復讐してやりましたよ、ってだけである。プロットがまったくツイストせずに静かに終わる。これは結構勇気のいることで、演出に自信がない映画は脚本をめちゃツイストしなきゃいかんが、フィンチャーに至ってはそこら辺の品質が担保されているから全然へーき。ファイトクラブ後のごたごたで若者には愛想をつかしたのか、大人向けに仕上がってます。おっさんには助かるがプロデューサー的にどうなのよそこんとこ。
テンポは一定で結構速いんだけど、登場人物が渋滞を起こしているわけでもなく、情報集めてターゲット殺して、みたいななんならRPGのゲーム配信をみているような感覚。ゆったりリラックスして観れるのである。フィンチャーの映画でこんなのいままであったか? ネトフリだから配慮したんか? だとしたらもうジジイなのに適応力スゴイな。
ここまで魅力を伝えようともがいたものの、「尖ったところないじゃん、じゃあなにがいいのよ」と言われたら、「テンポや画作りや音楽をいい感じにまとめてるフィンチャーのセンスがいいんだよ」としか言いようがない。
Twitterもどう褒めていいかわからん人が多そうである。キャラがいいとか意外な展開とかそういうのがないからね~
あ、オープニングは相変わらずさすがです。今風なのかトラディショナルなのかどっちともとれる印象。ドラゴンタトゥーの女の次に好きかも。なんつうかほんと力抜けてていい感じですね。
中盤の山場であるアクションについて。めっちゃくちゃよかった。私は結構最近のハリウッドのアクション演出が面白くないと感じていて、期待して裏切られるのを繰り返しているのですが、今作は良かった。
ファンタジー路線ではなく今作はリアル殺し合い路線なのだが、相手の脳筋っぷりと主人公の技巧派(ポカミスあり)が、ギリ理解できるレベルのスピードで繰り広げられており、カットを割りまくったり音楽で強制的に盛り上げたり、難易度的に無理のある技で見栄を切ったり、体重乗ってない小技で延々ぺちぺちさせたり、そういうダメ要素が一切ない泥臭いアクションだった。(泥も過ぎるとシン仮面ライダーのクソラストバトルになるが)喧嘩稼業の十兵衛対石橋をちょっと連想した。
ちなみにわたしはハリウッドのアクションがつまらなくなったのは、大体がボーンシリーズのグリーングラスのせいじゃないかと半ば逆恨みしている。アクションになったらカットを割るな!ストⅡかってくらいのフィックスで撮ってよ!
ヴィルヌーヴもアクション演出はしょうもないので、フィンチャーがやらなきゃもうだれがやんのよ的な感じだ。うれしいです。
そもそもアクションってシリアスよりコメディに親和性高い気がする。デューンもボーンシリーズもまじめだしなんかアクション中も辛気臭ぇんだよな。「ザ・キラー」はそこらへんわかってて、「酔拳2」ほどじゃないけどすごく細かく笑いをとりにいってます。アメコミヒーローの寒いジョークでもなく。
恋人の女性が襲われた現場で、ポーティスヘッドの「Gloly box」が流れてきたときは笑った。女が襲われたからって、BGMで「ウーマン~♪」じゃないんだよ。まんまやんけ。