尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

受信してくれる一部の人への愛を歌うアウトサイダー エリオをかまってちゃん:Os-宇宙人

 


ほら不安定 バイトできない 会話できない 空見上げる
サボり学生 パジャマ着てる 夏休みが 来ずに中退

愛してくれるかなと 狂ったりしてみると みんなが叫ぶなかでぱちくり見ているあなたが居たから

 

 


名曲だと思う。歌詞も演奏もすごくいい。
人間関係絶望的なマイノリティが、ほのかな希望を歌った文字通り電波ラブソング。2011年のアニメ「電波女と青春男」のOPである。

神聖かまってちゃん、の子の指導だと思うのだが、わざと調子はずれにすることで醸し出すチューニングがあってない(周囲と周波数があっていない)感。
この傾向はの子ボーカルバージョンの方が激しい。
自分の表現は大幅に常識から外れているけど、これをいいと認めてくれる「そんなあなたのことが好き」という切実な思いに満ち溢れている。
切実ゆえに異常なほど激しく、それがキンキンしたボーカルとキーボードやゴリゴリのギターの音圧につながっている。
巷にあふれている「等身大の共感できるラブソング」とは真逆の、誰にも理解されない一切苦厄の中に一つ救いを見つけた狂喜の歌である。
「大島宇宙人」とあだ名をつけられていたらしい、の子の私小説みたいな雰囲気の歌詞である。

理解されない苦しみというものは、おじさんになればさすがに慣れるが、ごくたまに若い人を殺す。
「恋愛ばかりでなく、すべての物の考え方が誰とも一致しなかった」といったのは江戸川乱歩だったか。

根底に社会から排除されざるを得ないアウトサイダーの悲しみがあり、その中でごくごく少数の認めてくれる人に会えた嬉しさ、
こんな感情が日本のアニメ文化が世界に誇るピーキー電波ソング的曲調と萌え声ボーカル+音圧ばっちりなロックとの融合で表現されたことが奇跡的。
ポップスがマジョリティ向けなら、かまってちゃんのロックはごく少数の好事家に届きゃよしとばかりに送られた曲なのかも。


しつこくて申し訳ないが、一番よいところはとにかく歌詞。
この歌詞の主人公はデフォルトで避けられてる人。自分を避けないでいてくれた、というだけで大好きになってしまう哀しさ。
まるでボロボロの野良猫にちょっとエサをあげたら急になついてくるときのよう。
想像してしまうとけなげというか哀れというか。

そこに集団の中で疎外された記憶を持つ人たちは共感する。(もちろん私も)イベントでぼっちだとちょっと話しかけられただけでめっちゃ喜んでしまうんだよなぁ。

このネット社会には誰にも受信されない発信がいくつもある。いつか誰か受信してほしいなぁ、とのんきな釣り人のようにほのかな期待を込めて待っている。
仕掛けや餌に工夫する才能も気力もない。皆に愛されるために方向転換したり自分を繕うことが絶望的にできない。たぶん死ぬまで無理だろうな、と半ばあきらめながら。
才能も金もコミュ力もない男はその気持ちを知っている。女性に拒否され続けると学習性無気力状態になるからだ。男性に理解のある彼女ちゃんは絶対に現れない。
だからこそこの歌詞は響く。愛されるのが当然の人が生涯知りえない感情だ。

自分もこんな弱小ブログをやっているのもあり、読んでくれるだけでうれしい。
この曲のように、「あなたを愛してる」というのはさすがに重たくてキモい(記号化された美少女絵だから許容できるのであってリアルな肉体を持つおじさんの愛は要らんだろう)とおもうので、素直に受信してくれてありがとうと伝えたい。読んでくれてありがとうございます。きっとあなたしか受信できないんです。

 

 

Os-宇宙人

Os-宇宙人

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