尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

小説

小説を読む理由探してる人、ここにあるよ! ストイックなほどに下世話、登場人物みんなクズ  阿部和重:シンセミア

小説を読む読まないでいったら、自分は読む方だと思います。ただ小説を読まない人の気持ちもわかります。面白くないものにたまたまあたってしまって、そのまま食指が伸びない。読みたいんだけどね…みたいなこと言ってる人多い。そんな人に勧めるのが阿部和重…

リーマン殺すにゃ刀はいらぬ、深夜特急読ましゃいい 自由への招待に君は抗えるか 沢木耕太郎:深夜特急

小説や映画や演劇など、「物語」の用途の一つとして、「非日常を提供する」がある。非日常への欲求っていうのは切実で、無いと結構やばいかもしんない、とは思う。自分としては社会と関わるといろいろと減る。体力気力メンタル。 異世界で満たされぬ欲求を疑…

近代文学の金字塔で我が邦の宝 読める幸せをかみしめまくり 川端康成:雪国

こういう小説が書ければもう満足でしょう。私も何億歩も後ろにいますが、先にこういうものがあると思って歩いてます。 SF小説などを読んでいるとダイレクトな表現とあきさせないテンポに慣れてなんとなく読めなくなってくるよね。自分でもバランスが崩れてい…

名作文学をコメディとして読む勇気と松本人志との接続について フランツ・カフカ:変身

チェコの天才作家フランツ・カフカで一番有名な作品「変身」。私もカフカで一番好きな作品です。調子乗って初めて読んだのは中学生のころ。 新潮文庫夏の100冊には感謝してもしつくせない。 ほんとにあのころ読んどいてよかった。その時はカフカ「変身」カミ…

非モテ男子はどこの国でも辛いんだよ  ミシェル・ウエルベック:闘争領域の拡大

フランスの現役作家ナンバーワン、ミシェル・ウエルベックさんの処女作でございます。その名も「闘争領域の拡大」。題名が堅い!読む気が起きない!カッチカチやぞ!とはいえ内容は意外にポップ。モテない成人男性の日常って感じ。章分けが細かくて最後にオ…

世界一のベストセラー作家が別名で書いた最高傑作 アガサ・クリスティ:春にして君を離れ

美しいタイトルですよね。シェイクスピアの引用だってさ。聖書の次に読まれているのがシェイクスピアで、次がアガサクリスティらしいですよ。ほんまかいな。でも2位と3位のコラボって。悟空とピッコロが組むラディッツ戦みたいな感じで素敵。 ですが内容は全…

傍目からは感じ取れない現代人の異常が書かれている 遠野遥:破局

芥川賞という賞がどのような賞なのかいまいちわかっていないし、純文学とは何ぞや、なんて考えたくも訊かれたくもないのだが、この賞は僕に定期的にいい作家を紹介してくれるのでまあまあ信頼している。(近年では西村賢太、村田沙耶香、上田岳弘) 打率は1…

ミニマルな日本語と構造が気持ちいい この後を知りたいけどそれは野暮ってものです 永井龍男:「青梅雨」

打ち切りマンガよろしく、「えっ、ここで終わるの!?」という気持ちになる小説は結構ある。 エンタメだと怒られるので、純文学のほうに。 この脱力感というか、置いてけぼりにされたような感覚。 好きなんです。 エンタメの基本なんか無視でいいので、そん…

これ以上ないほどにエログロ! タイトルは声に出したくなるよね 野坂昭如:骨餓身峠死人葛

ほねがみとうげほとけかづら。ほねがみとうげほとけかづら。 骨餓身峠死人葛ですよ。 骨餓身峠死人葛ですよ! 日本一かっこいいタイトルの小説なんじゃないすかね。どれだけおぞましいものが書けるかという実験なんじゃないだろうか。すごいよ。差別アリ、暴…

一度でいいからみてみたい タンカー千切りするところ 劉慈欣:三体

流行りの中華産SF小説。 想像の遥か外。 アイディアの坩堝。 わたしこそちっぽけな虫けら。 歴史も科学もエンタメ要素もごちゃまぜ。これぞオールドスクールなSF。 やっぱSFは短編より長編が好きなんだよなー。えてして短編というのは言葉を切り詰めた切れ味…

ダメ人間の見本市 筒井康隆:家族八景

突然ですが、わたしはダメな人間を見たり聞いたりすることが好きです。 ダメ人間のことを考えるだけでわくわくします。自分がダメなのでダメな人がいると共感します。わたしのダメな人間のなかで好みのタイプは、自分同じタイプである怠惰で人間ぎらいな性悪…

天才作家の渾身の一撃 町田康:告白

平成に刊行された小説の中でも間違いなくトップ10に入るであろう大傑作。 谷崎潤一郎賞受賞。「朝日新聞平成の三十冊」で3位。 分厚いからみんな読まないのかなぁ。超面白いのに。好きでたまらない。本作は日本の近代小説の金字塔です。ゼロ年代は海辺のカ…

日本のSF小説はほんとうにおもしろい。 伊藤計劃:虐殺器官

天才の所業です。 日本のSF小説の潮流を変えてしまう程の魅力を持った作品です。はてな民の方には釈迦に説法の気がしますけど、ほんとうにすきなんです。許してください。このブログも著者の映画ブログ『第弐位相』に影響を受けて始めたものです。(このブロ…

情報量の暴力 大混乱を楽しめる素質を磨け  トマス・ピンチョン:競売ナンバー49の叫び

ピンチョンはね……文学をかじろうとする人間にとっては憧れなんですわ。二十歳なりたてなのに度数高い酒を飲んでみるとか、アマチュア登山家のくせにスポンサー集めてエベレスト挑んじゃうとか。結果は無残です。難解すぎて読めるわけない。似たような作家に…

世界の全体最適の加速と個人 あと唐突な暴言がおもしろかった  上田岳弘:ニムロッド

平成30年下半期芥川賞受賞作品。書店で衝動買いして二日で読みました。いやーよかったですね!最初は上田さんどうしちゃったんだ?っておもっちゃったけどね!芥川賞は純文学の新人賞なのでSF作家はなかなかとれません。近年では円城塔ぐらいかな?好みに合…

無視されがちな恋愛要素にこそ司馬イズムの真骨頂 司馬遼太郎:燃えよ剣

燃えよ剣(上) (新潮文庫) 作者: 司馬遼太郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1972/06/01 メディア: 文庫 購入: 32人 クリック: 409回 この商品を含むブログ (293件) を見る 永遠に消えない新選組ブームの種火であり、沖田総司を天才美青年剣士にしてしま…

罵倒と差別の快楽 村上龍:愛と幻想のファシズム

傑作であり衝撃作です。高校の時に読んで以来ずっと自分の中でベスト小説。次点で町田康の「告白」が続きます。ずっと考え続けなければならないし、わたしの人生について回るハードルというか障害というか。これに触れない限りこのブログは始まりません。私…