尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

罵倒と差別の快楽 村上龍:愛と幻想のファシズム

 傑作であり衝撃作です。
高校の時に読んで以来ずっと自分の中でベスト小説。次点で町田康の「告白」が続きます。
ずっと考え続けなければならないし、わたしの人生について回るハードルというか障害というか。これに触れない限りこのブログは始まりません。私の創作も始まりません。
なぜこれまで惹かれるのだろうか? 刺激的に感じるのはなぜ? 文体や描写の情報量の影響かしら?
ずっと考え続けているんです。なぜだ?マジでなんなのん?

 村上龍のもっともノッている作品のように思えます。彼が初めて世を牛耳るシステムである「経済」に相対した小説です。
"主人公鈴原トウジはハンターで、弱者が大嫌い。この場合の弱者とは、反自然的な経済システムの中に安住している弱体化した人間のことです。野生を失い、
果ては自分で考えることができなくなった弱者。トウジは彼らを徹底的に攻撃します。というかしっかり殺します。その描写が大胆、具体的かつシステマチック。まあキモチイー。"
エヴァの関西弁ジャージ野郎のネタ元であることはいろんなところでこすられてますね。エヴァと愛と幻想のファシズムの関係はスキゾ・エヴァンゲリオンに詳しいのでみんな読もう。)
この人のまあ魅力的なこと。眉目秀麗の29歳、単身アラスカにわたりバイトしながらハンター修行。幻のエルクを捕まえるなんて抽象的な目標掲げてとんがってます。
そんな人が、ゼロという悩める芸術家気質の実業家に出会い、「狩猟社」という政治結社を立ち上げる。弱者に厳しい日本を作るために、冬二はカリスマと暴力で独裁者へと進んでいく。
"ファシズムは悪い思想ではない。ヒトラーは好きだ。などの一般社会においてタブーとされていることをこいつは平気で吐きます。正直私も同感です。
ホロコーストや侵略行為に関してはマジでないと思いますが、ヒトラーの経済的、医学的功績を見逃してはいけない。また広義のファシズムは思想としてはありだと思ってます。初のブログエントリがこれってやべえかな。とにかくリーダーシップに関しては日本の大本営よりナチスのほうがはるかにマシだよね)"
わたくしはエヴァからこの小説に入ったクチですが、
"最終的には日本的な民主主義が機能していないので大嫌い、というところと、大衆嫌い、という部分が琴線に触れているのだということなのかしらん。
あ、このブログは基本的に気持ちよくすっぱりと結論がでることは少ないと思います。なぜだかわからんがスキ、きらい、などの着地になることが多そう。なんか無能感あふれてていやだな。
でもしゃあない。不確定性原理というものがこの世にはあるのだ。

 

偏愛的「愛と幻想のファシズム」セリフ集 

※もはや私の血肉と化しているので、リアルでも使うかもしれない。でも内容がまずい。これでは世間とやっていけんわ。

・「バカ野郎、俺はスコッチしか飲まないんだ」(トウジ)
ゼロと出会ったときのセリフ。カナディアンクラブおごられているのにバカ野郎はねえだろ。なんかかっこよくて好きです。

・「真実っていうのはな、あんたみたいな未熟児は昔ならみんな死んでるってことだ」(トウジ)
"狩猟社のCMを作ることになる、未熟児の映像作家に対して吐いた暴言。超差別的発言だけど、笑っちゃうしかっこいいんだよなぁ。

魅力を感じてしまうのは、差別と暴力というのは、根源的な快楽に根ざしたものであるということです。


この後こいつの彼女の容姿を中心に徹底的に貶めて、そのあとアメとムチ的に慰めます。ブサイク同士はは子供を作るな、みたいな。

ちなみに私事ですが、この作品に思い切り影響を受けた小説を書き、ハヤカワSF大賞に応募して一次で落ちてます笑 若書きとはいえまあまあ好きな作品なので、いずれ手直ししてどっかで発表したいです。

関連作品
・コインロッカーベイビーズ(トウジ、ゼロ、フルーツという男2女1の主人公グループは、本書のキク、ハシ、アネモネの構造と一致します。これまた名作中の名作。みんな大好き村上春樹を覚醒させたことでも有名)
・インザミソスープ、半島を出よ(これも村上龍。日本人批判という意味合いで。どちらも面白いよ。特に半島を出よは熱と情報の量が異常。)
新世紀エヴァンゲリオン(親殺しのテーマを本書から引っ張ってきたらしいです。父を殺して母を犯す、ギリシャ悲劇だよ。創作者は神話的な物語論からは逃げられない。庵野秀明は小説はつまらないですけどね、なんて嫉妬気味の強がりを言っている。ちなみに師匠筋の宮崎駿も本書は読んでいるらしいよん)
・キーチ!(漫画です。独裁者、というテーマが一緒らしい。友人に勧められましたが、濃すぎる絵が苦手で未読なんですの、いつか読みたいです)

 

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫)

 
愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

 

 

 

〇会社をやめました
"このブログは評論と自分語りの二本立てにしようと思ってます。でも自分語りの部分は恥ずかしいしつまらないので、あくまでおまけで、ボリューム少なめにしたいです。
弁当に入っているまずい煮物みたいなかんじで処理してください。あくまでメインは評論です。(批評、と言いたいけどまだむり)"
"表題の無職宣言ですが、2月15日で勤めているITの会社を辞めます。自分を追い詰めるためにやむを得ず、という感じです。文筆業でくっていきたいなあ貧乏でいいから、という思いは中学くらいからずっとありましたが、いい加減なんとかしないといけん。ちゃんとした作品を発表せずにいると、死ぬ前に後悔することになるやもしれん。ということです。
私は根っからの内向的怠惰人間嫌いで、人と会うのは嫌いではないのですが、オフィスに数時間いるだけでただでさえ少ない精神的エネルギーをごっそり持ってかれるのです。
会社に行くと帰ったら疲れ果てており、小説や脚本を書くモードになかなか入れません。そんな自分がいやすぎて、やめました。作家になる目的の一つとして、人とかかわりたくないという下心もあります。(一日中だれとも会話せずに済んだら、どんなに幸せか・・・)"
DARPAでネットを作ってくれた人、ありがとう。私みたいな内向ダメ人間でも食っていけるかもしれない。このブログも含めて、すこしでも面白い文章がかけるように頑張る次第です。
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生活保護にならぬよう頑張ると決めたのだ。そうきめた。