美しいタイトルですよね。シェイクスピアの引用だってさ。
聖書の次に読まれているのがシェイクスピアで、次がアガサクリスティらしいですよ。ほんまかいな。
でも2位と3位のコラボって。悟空とピッコロが組むラディッツ戦みたいな感じで素敵。
ですが内容は全然美しくありません。とある中年女性が旅先で自分と向き合い、信頼していた足場が崩れ落ちるような不安に駆られる、という極めてミニマルなストーリーです。
よくよく考えたら自分は家族から愛されていないんじゃないか? という疑問に、各種エピソードを回想しながらじわじわと確信に至る…
丁寧なサイコサスペンスといっていいでしょう。
いうなれば、何から何まで都合の良いことが起きるハーレクイン的な世界観の真逆で、今までうまくいってたと思ってたのは自分勝手な思い込みだったのでは…という話。
こんな構造の小説は初めて読みました。しかもクリスティ。尖ってるな…
メアリ・ウェストマコットという別名義で書かれた作品群の一つです。人が死ぬ作品ばっかり書いたクリスティですが、私は人を殺さなくてもこんだけ読ませるなんてエグイぞクリスティ、と嘆息しました。
アガサ・クリスティーといえば、外連味あふれるトリック、灰色の脳細胞を持つノーブルな探偵の魅力、独特なシチュエーションなどが魅力としてあげられますが、
この作品はミステリではなく心理小説です。頭のいかれた人、病んだ人もでてこない。一般人の日常の範疇で恐ろしいサスペンスが進行する。
それが最高傑作たるゆえんであり、正直これに似たものをいくつかマンガなり小説なりで読んだことあったとしても、これはなかなか越えられない。
いわゆる流行りのイヤミスなんて本作には全く及ばないですね。家庭を持っている中年女性はこの本を読んだらホラー映画どころじゃない恐怖を覚えるでしょう。
最後の一文でズバッと決めるのもさすが。ベストセラー作家ってすごいなぁ。
ちなみにコロナで入院中に読みました。落ち込みきってた精神を本物の文学に触れることでちょっと持ち直させてくれた作品です。一生忘れないでしょう。いい出会いでした。