尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

物質主義の終わりとアナーキィ・ワンダーランド  デヴィッド・フィンチャー:ファイト・クラブ

生涯ベスト映画です。
まあとにかくテンポ速い。原作のチャック・パラニュークの語り口はいちいちひねくれていて、暴論故に気持ちがいい。
生理的なリズムでしょうね。もっと歳食ったら小津安二郎とか好きになるかもしれませんが。
今映像のテンポで一番好みなのは庵野フィンチャーです。観てて気持ちいいです。
逆に遅い作品は、他の魅力がないと観れません。

でも大丈夫。圧倒的に画がかっこいい押井守がいる。

 

伊藤計劃の映画批評では、この映画はコメディである、と。

ただ、コメディとしての土台にサスペンスとメッセージとサイコドラマが乗っかってきます。その点ではジャンルがはっきりしてないと嫌な、ジャンル原理主義者にはこの映画は合わないでしょう。


映画が終わる直前、サブリミナル的に挟み込まれたワンカット、これが悪趣味なこの映画を全部表している。
でっかいちんこです。
徹底的に茶化しています。社会の成り立ちや当たり前の倫理感を。
何気ない一言も劇薬。

タイラー・ダーデン(英エンパイア誌が行った『最高の映画キャラクターランキング』で見事一位)について。
赤いレザージャケットは、こいつかカズレーザーしか着ているの見たことありません。サザビー(何気シャアと思想が近いな)とか金田のバイクとかとかっこよさの種類が一緒。
この人はパラニュークの友人たちのエピソードを集めてできたキャラらしく、サッチャーのスープに自分の小便を混ぜたとかいたずらの領域を軽く超えたおちゃめ成分でできているのです。そんなやつに魅力を感じてしまう自分とは、無意識的に何に抑圧されているのか考えてみよう。
最終的に徒党を組んでテロ組織になってしまうので、かっこよさは激減(アナーキストは一匹狼であってほしい)するのですが、序盤から中盤にかけての魅力は異常。

 

子供を産めないパンダは 全部撃ち殺してやる  

オイルタンカーに穴を開け 南仏のビーチを重油で汚してやる 

美しいものを壊してやる

 

嗜好が幽遊白書の樹みたいだね。「「キャベツ」や「コウノトリ」を信じている可愛い女のコに無修正ポルノをつきつける時を想像する」みたいな


なんてことない話だが、東京駅でおりて丸の内のど真ん中に居ると、この映画を思い出す。ビルを爆破する妄想をします。
ラストシーン、理想の自分を破壊して今の自分を受け入れた主人公が、物質主義の根幹である金融システムを破壊する為、
ウォール街のビルを爆破して次々と崩れ落ちるシーン。音楽はPixies「Where is my mind?」。
映画史上に残るラスト。ドラムのフィルイン、ジョーイのギターとキムのコーラスがウツクシー。音すっかすかの最小構成。ミニマムなロックって虚無的ですばらしい。
今のベーシストであるパズ・レンチャンティンちゃん超かわいいけどコーラスはいまいちなので、キムおばさん戻ってきてほしい。

あと画面がすごい暗いです。フィンチャーにはありがちだけど。