尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

静のドンパチ映画、主役はもちろん映像、時々デルトロの顔  ドゥニ・ヴィルヌーヴ:ボーダーライン(原題SICARIO)

 

邦題ダサくするの勘弁してくれ……

 
この映画はとにかく映像がきれいです。ドゥニ・ヴィルヌーヴは空軍基地をきれいに撮る名人ですね。
というか、空軍基地というものがそもそも美しいのかもしれません。抜け感が半端ないので気持ちがいい。

庵野だったりガイリッチーだったりどうしてもカット割りのテンポが速い監督がすきな私ですが、対極と言ってもいいヴィルヌーヴ黒沢清相米慎二みたいな画面をあまり動かさないゆったりした監督も好きです。
映画はある程度演出が極端であってほしいですね。別世界に連れてってくれるのが魅力ですから。
ただ、画が平凡だったりするとあっという間に飽きてしまうので、ゆったりしたテンポでいい映画といのはあんまないよね、ということ。

この映画はかなり完璧に近いです。テーマの関係上メキシコをめたくそに言い過ぎですがw(今はもっと平和だと思いますよ)
メヒコの麻薬カルテルアメリカの各組織のはなし。主人公はFBIの女性でエミリー・ブラント。この人は地味な格好してもきれいですね。むしろ地味な方がいいですね。
メリーポピンズでケバい格好しているのがもったいないくらい。メリーポピンズの格好がイギリスのオールドミスみたいな恰好だから個人的にはまらないんかな?クリスティの小説で真っ先に殺されそうな感じ。

デルトロはいつ見ても顔が最高ですね!エミリーと並ばせれば何秒でも見れるぞ!

 

序盤のシーン、メキシコに近いカンザス州の誘拐犯のアジトにSWATが突っ込むシーンがあるのですが、
服が黒い、車も黒いので、全体的に明るい色合いの画面の中でめちゃめちゃ浮きます。地面も白っぽい砂、白い土壁、青い空、その中にまっくろのSWAT。画的にすごいかっこよくて見やすいんだけど、
視認性高すぎない? 特殊部隊なのにそんな目立っていいの? この映画もしかして全然ダメなのでは……とか考えてたのは杞憂でした。

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なぜならこの映画は、SWATに所属しているエミリーブラントが対麻薬カルテル特殊部隊の中で浮いて浮いて浮きまくる映画なのです。だからこのファーストシーンはものすごく正しいのです。
SWATはFBIです。ネタバレですが、対麻薬カルテル特殊部隊の構成メンバーはCIA、コロンビアの別カルテルのメンバー、あとは軍です。
アメリカの警察・軍・情報機関はそれぞれミッションも性格も違うので、ある程度分かっていないと難しいですが、
まあ全く違う組織であるということを理解していれば良しなのかしら。(自分も対して知りません。日本の警察庁と警視庁の違いを最近まで知らなかったし)
そこらへんの組織オタクはそれはそれですごいんでしょうね。グリーンベレーとデルタフォースって何が違うのん?

ともあれファーストシーンからずっと、麻薬カルテルという価値観が全く違う敵、それに対抗するアメリカ側の組織もめちゃくちゃな奴ら、
エミリーブラントは無力感の塊……
基本この映画のざっくりした構造は、状況もつかめてないのにやばい奴らとドンパチ → エミリー役に立たない、価値観の違いにドン引き → 打ちひしがれて煙草を吸う(禁煙中なのに)という3つのパターンを繰り返すものです。
イライラしている美人のおばさんと美しい風景を見てる時間が結構長いです。その繰り返しがマジ楽しい。演出うまいから飽きない。

テンポは他のヴィルヌーヴ作品と一緒でかなりテンポ遅いのでそこらへんは注意。笑えるところもそんなにないです。
心の隙を裏切者につかれてすぐに心と股を開いてしまうエミリーはちょろくてかわいい。

とにかく画面の美しさを観ましょう。ここまできれいな映像を撮る監督はなかなかおらんよ。欲を言えばちょっと笑わせてほしい。

 

 

ボーダーライン(字幕版)