尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

あなたの人生にはモルヒネ的なものが必要か My Bloody Valentine:Loveless

浮遊して、朦朧として、やらなければいけないこともせず、どちらかといえばネガティブな気分なんだけど不思議に心地よく、二度寝したときにみるシュールな夢のなかのようで、いつまでもとぎれずおわらないぼんやりした感覚。

 

このアルバムは用途が決まってしまっている。

いってしまえばトリップに似た状態になりたいとき。

我々は日々外部からの情報に感情を振り回され、疲れ果てている。情報量をシャットアウトし脳内のキャッシュを整理するためにねむる。ただ、そのようなルーティーンをあえて破り、夜更かししてアルコールを摂取し、酩酊しながらこのアルバムを聞いて、亡霊の声のようなギターにからだを浸せば、おのずから情報との嵐から解放され、アッパー系ではなく、かといってダウナー系でもない、雑音の中から聞こえる美しい旋律に身も心も任せ、そこには論理も義務もない甘美で落ち着いた感情のみの世界に浸れる。

 

このアルバムがピンと来なかった、という友人がいたが、彼の人生の中にはこの音楽は必要ないだろうな、と納得したことがある。

彼は現実的で妥協的で幻想を必要とせず、しっかりとした足取りで人生を歩むひとだった。彼からすればわたしは空中でふわふわしている感覚のみの馬鹿にみえただろう。

だけどなぜか気が合った。正反対の性格だったからだろう。

 

正直この音楽の魅力を説明するのは難しい。アルコールの酩酊とはすこしちがう気もする。だけれどわたしの人生には確実に必要で、明確な理由もわからないまま、ずっと聞き続けるのだろう。

 

本作のハイライトは際立って幻想的な#4「To Here Knows When」から亡霊のうめき声のようなギターに爽やかなフレーズが乗っかる#5「When You Sleep」の流れ。

曲をバラバラに聴くのではなく、あくまでもアルバムとして聴きましょう。

 

 

 

LOVELESS

LOVELESS

 

 

 

〇創作の非論理性

 

創作活動全般に言えることなのだが、自分が作ったものをすべて説明できる作者は少ない。ドライブ感を重視して作っている作者はこの傾向が顕著だ。

映画「三つ数えろ」は一級のサスペンス映画なのだが、作中のある殺人の犯人がわからない。わからないまま映画は終わる。

制作中、原作者のチャンドラーにそのことを監督であるホークスが訊ねると、「俺だって知らないよ」という答えが返ってくる。

エヴァ」や「スリー・ビルボード」など、考察すればいくらでもできる物語はたくさんあるが、こじつけと真実の曖昧な境界線を楽しめるようになると、物語はきっとあなたの頭の中にいつまでも残るでしょう。

答えを探してネットを徘徊し続けるなんて、野暮天ってモンです。

「ご都合主義」って言葉は便利だけれども、それを使う人は作品を頭で考え過ぎちゃってるかもね。