尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

ポップカルチャーが通奏低音である世代が作り出した ぼくたちのバンド革命 相対性理論:シフォン主義

物心ついた時、夕方にはアニメが当たり前に放送していて、時々ジブリやディズニーなんか観つつ、任天堂のゲームに時間の大半を費やしていた。
ジャンプではワンピースとハンターハンターがしのぎを削り、とても勉強などしていられる場合じゃなかった。
ゆとり教育に甘やかされつつ、大人たちの古い価値観を華麗にかわしながら、退廃的で快楽主義で、それでいてハイレベルな娯楽を浴びてきた。
そんな子供時代を送ると、こういう音楽が響いたりするのだ。
2006年結成のバンド、「相対性理論」は90年代の申し子である。(なんかライナーノーツみたいで恥ずかしくなってきた)

このアルバムは彼らのファーストミニアルバムで、タワレコのインディーズチャートで1位を獲得したらしいですね。
自主製作らしい。一発目でこのクオリティですか。
邦楽ロックのなかで、エリート中のエリートであるといえる。高校野球で言えば藤浪とか。
そんなにがすごかったのか。
まずベースでありリーダーでありメインの作詞作曲者である真部脩一。
ゼロ年代風のサブカル+ネット+ゆとり文化を意識しダジャレを駆使した歌詞。バンド名からわかる通り理系丸出し。
ほんでボーカルのやくしまるえつこの存在。
現在はウィスパーボイスを前面に押し出して萌え萌えなボイスでおじさんたちを挑発する楽曲が多くなったが、
このアルバムではなにしても無感動なガキみたいに世間を突っぱねたような歌声である。何にも感情がのっていない。
私にとっては、相対性理論というバンドは真部脩一の曲+やくしまるえつこの声。それに尽きる。
最大の特徴がここ。
自分たちの一つ上の世代が敬愛する尾崎豊長渕剛、あるいはメタルバンドなどが、異文化としてしか感じられない私。(満33歳の1987年生まれ)
このバンドはえげつないくらい響いた。我々の世代の音楽はこれである。
TSUTAYAで借りてきた大学生の私は#1「スマトラ警備隊」のイントロのギターで「あ、これはいいな」と直観的におもった。多分一生忘れない経験なのであります。
同じ価値観の人間を見つけた感じがした。
#2「LOVEずっきゅん」のアウトロのベースは一度弾いてみたい。たのしそう。


相対性理論『LOVEずっきゅん』


日常系アニメを文字通り日常的に見て慣れてしまった我々にとってはこの声と詞はポカリスエットのごとく浸透する。
真部さんが抜ける前の相対性理論はいいよ。おすすめ。

話はかわりますが、当たり前だけども現代文化のポピュラリティというのはネット登場からものすごいスピードで質と量が変化するようになった。
現代のポピュラリティに私はジェネレーションギャップを感じている。
今のメインストリームは多分Youtuberだ。他にはなろう系ライトノベルスマホゲーなどなど。質の高低を別にして多様化し、量も爆発的に増えた。
私はその変化に置いて行かれたと自認している。
ポピュラリティから置いてかれてるおじさんだ。
ダサい。そんなのやだ。たのしくない。
ではポピュラリティに対するカウンターとしてタコツボにひきこもった冷笑系オタクか、批判ばっかりの偽エリート左翼になるのか。
でもそれもイヤだ。死ぬほどダサい。
結果、自分のスキだった90年代末~2010年代初めくらいの文化をループして摂取しつつ自慰するしかないのだ。老害に見えないよう細心の注意をはらいつつ。
悲しい。でも私にはそれしかない。

でもあたらしいコンテンツの魅力が分からなくなっても、くらいついていきたい気持ちもあるんだよなぁ。

 

 

シフォン主義

シフォン主義

  • アーティスト:相対性理論
  • 発売日: 2008/05/08
  • メディア: CD