女は男の弱さを決して許さない。
男の暴力も許さないが、それ以上に弱さを嫌悪する。
母は弱い父を糾弾し続けた。
長男である私も友達を作らず精神が弱かったから、母に叱られ続けた。
私は運動ができて頭も良く、友達の多い少年に無理やり造り変えられた。
ストレスで髪の毛を抜いたり風呂で泣いたりしながらの懸命な努力で。
おそらくほっといたら、内向的で地味な人間として一生を終えただろう。ただそれは許されなかった。
父は共に地獄を潜った戦友だった。
父は家庭が辛かっただろう。ギャンブルやタバコなどの逃げ場も母に塞がれて。繊細で傷ついた心を誰にも見せなかった。
晩年の自殺未遂2回以外は。それが唯一の母との交渉手段だった。
父はもうすぐ死ぬだろう。
今朝母から、父が水も飲めなくなった、と連絡が来た。
私は父と精神的に繋がっている。
すでにもう父の意識はないに等しいので、残った少しのつながりが切れるだけなのかもしれない。でも、私の精神がどうなってしまうかわからない。
しつこいようだが引き続き、朝のセロトニン不足による落ち込みがひどいのだ。
これに終わりは来るのか? 退職すれば何とかなると思うが…
ちなみに昼間は嘘のように治って上機嫌なくらいだ。
NHKようこそ!の漫画版が安かったので、午前中で全巻買って読んだら、自分より大変そうな人ばかりで癒された。フィクションの正しい使い道だと思う。
ただ、岬ちゃんみたいな女が果たして居るのかどうかは疑問が残る。とにかく彼女のボブカットは理想的な形である。好きだ。
さて、岬ちゃんを好きになったところで、好きなものが食べたい。
しかもとびきり好きなもの。
自律神経を保ってくれそうな名前の町で良い。
アカシヤ書店。古本屋の匂いはたまらない。
匂いを嗅ぎに来てるようなものだ。
囲碁関連の古本がとにかく多い。
父なら喜んだだろう。
さぁ、お目当ての「丸香」である。
都内指折りの讃岐うどんの名店。
かなり並んでいるが回転率も高いので、30分くらいで入れるだろう。
ずっと会社を休んでる身からすればすぐである。
順番待ちといえば、ついこの間まで好きだった後輩の女の子は、エレベーターを待つちょっとした間さえ我慢できない娘だった。結局十三階分エスカレーターで登ったのを覚えている。それもASD故だろうか。2か月前のことがかなり昔に思える。
まだ前に10数人ほど並んでいる間、後ろの男がずっと仕事の電話をしている。
今仕事をバリバリやっている人間をみると劣等感をくすぐられる。
ずっとこれを聞かないといけないのか…と絶望していたところ、店員から何名か尋ねられ、1名だと答えると、10数人をごぼう抜きして店に入れてくれた。
みな連れがいるのだ。
一人の身がなんとも切ないが、このごぼう抜きは気持ちがいい…
なんだなんだツイてるな。
ハードロックが流れる店内へ入る。
ぐだぐだと当たり前のことを長く書かないが、
丸香のうどんと天ぷらはすごくうまい。
みんなも一度は行くといいとおもう。
次によく通っていた喫茶店に向かう。
音楽と雰囲気とケーキが最高なミロンガ・ヌオーバだ。
移転後のミロンガ・ヌオーバは初めて。
音楽は丸香の強烈なハードロックから一転してシャンソンだ。
そこは変わってない。内装も前の店舗に近いが、やや照明が明るいのは否めない。
隣の席はおそらく医大生2人。論文や医局のポストについて話している。
アイスコーヒーにあわせて胡桃のパウンドケーキを頂く。
私は真冬だというのに冷たいものばかり食べている。
暖かいものしか食べない中国人にはなれない。
生クリームをつけて一口。
美味い!
なんだこれめちゃくちゃ美味い。
生クリームの濃さとケーキとメープルシロップの甘さ、胡桃の風味が相まってドンピシャである。アイスコーヒーで洗い流してまた一口食べると、反復の喜びに浸れる。
来て良かった…勘でこのケーキ選んだのに大正解…
音楽も、空調も、周囲のおしゃべりも心地良い。相変わらずいい店だ!
医大生の学問への熱意が頼もしい。日本の医療は安泰だ。
残りのケーキに、生クリームとメープルシロップをたっぷりつけて一口で頬張った。
最後の一口、美味くて飛んでいきそうだ。
長居はしないが、また来よう。絶対に。
とにかく元気が出た。
神保町から新宿三丁目まで歩いてやろうと思った。絶好調である。
このFAMというガトーショコラ正月用に1本買ってしまった。実家に送った。
5000円もしてしまう。大散財だ。完全に躁状態。
しばらく歩いていると靖国神社が見えた。
市ヶ谷で働いていた時はよく散歩に来たものである。当時もどこか鬱屈を抱えながら歩いていた。しかし靖国神社のでかい鳥居は、本当に見事だ。
ちょっとした巨大建造物だと思う。
しかしつくづく思うのが、もう一生貧乏でいいから、会社には入りたくない。
全く合わない会社勤めを3社合計12、3年。なんかほんと頑張ったな…
とっくにサラリーマンという雇用形態には我慢ならなかったのだ。
メリットは多いにしても、他人が作ったビジネスなど知るか。
歩いているとダンススクールの光景が見える。
おそらくヒップホップ系のダンスなんだろうが、若者に混じって、坊主頭のどう考えても、中年の坊主男が鈍そうに手足を動かしている。
メンタルが健全だと、こんなこともできるのか。
人間の可能性は無限なのだなぁと感じさせる。
自分もこれからなんだってあり得るはずだ。
岬ちゃんが居なくとも、生きていかなければいけない。