尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

無関心と労働者階級とカトリック 軽いB級映画に重いテーマをぶち込みまくった快作 トロイ・ダフィー:処刑人

自分が腐女子だったとしたら。この映画でアンソロとか二次小説とか作りまくってたんじゃないかしら。なんせイケメン双子兄弟モノである。なにせキャラが濃い。これマンガだよ。大衆向け娯楽である。ハッピーエンドで終わればいいじゃん。なのになぜ最後こう…

ポップカルチャーが通奏低音である世代が作り出した ぼくたちのバンド革命 相対性理論:シフォン主義

物心ついた時、夕方にはアニメが当たり前に放送していて、時々ジブリやディズニーなんか観つつ、任天堂のゲームに時間の大半を費やしていた。ジャンプではワンピースとハンターハンターがしのぎを削り、とても勉強などしていられる場合じゃなかった。ゆとり…

これ以上ないほどにエログロ! タイトルは声に出したくなるよね 野坂昭如:骨餓身峠死人葛

ほねがみとうげほとけかづら。ほねがみとうげほとけかづら。 骨餓身峠死人葛ですよ。 骨餓身峠死人葛ですよ! 日本一かっこいいタイトルの小説なんじゃないすかね。どれだけおぞましいものが書けるかという実験なんじゃないだろうか。すごいよ。差別アリ、暴…

本邦最強変態バンドの集大成 NUMBER GIRL:NUM-HEAVYMETALLIC

2019年に再結成!ほんとうれしいうれしいうれしいうれしいよー 今ライブ観に行けないけど…わたくしが一番好きなバンドの一番好きなアルバム。たぶん一生変わらないでしょう。オールタイムベスト。本邦が誇る最強オルタナティブ・ロックアルバム。唯一無二。…

リアリズム+そこはかとないエロが超盛り盛りで大満足。内容は貧困なのに高級感あふれる工芸品のような映画 是枝裕和:万引き家族

この映画すげえわ。そらパルムドールとるわ……みんながみんな上手すぎるよ。ちゃんと邦画も進化しているのねん。リアリズムってやっぱ振り切った方がいいんだね。万引きってワードはいわゆるツカミですね。ファーストシーンとしては完璧ですが万引きはこの映…

勇気出してこの作品がもつ「雰囲気」について信者が語ろう 押井守:「スカイ・クロラ」

わたしはこの映画の雰囲気が大好きである。超好き。好き好き大好き。 映画における「雰囲気」。いい加減なことばだけどそれが正しい。ネットに永遠に残るから宇多丸の批評能力の限界を示し続ける映画。宇多丸とは結構波長が合うんだけど。この映画ではまった…

快楽から不快へ真っ逆さま いつにもまして画面が真っ赤なドラッグムービー ギャスパー・ノエ:「クライマックス」

高校生の時「カノン」を観てからずーっと好きだった監督ギャスパーノエ。あらゆるモラルに喧嘩を売る監督ギャスパーノエ。どす黒い赤が何とも不穏なギャスパーノエ。DVD買っても観る気分になかなかなれないギャスパーノエ。(「アレックス」とか買ってもいつ…

一度でいいからみてみたい タンカー千切りするところ 劉慈欣:三体

流行りの中華産SF小説。 想像の遥か外。 アイディアの坩堝。 わたしこそちっぽけな虫けら。 歴史も科学もエンタメ要素もごちゃまぜ。これぞオールドスクールなSF。 やっぱSFは短編より長編が好きなんだよなー。えてして短編というのは言葉を切り詰めた切れ味…

一分のスキも無い超上質映画 PTAは天才だ ポール・トーマス・アンダーソン:ファントム・スレッド

私は恋愛映画が苦手だと自認してますが、よく考えたら、オールタイムベストのファイトクラブも羊たちの沈黙も風立ちぬもイノセンスもみんなサブプロットが恋愛映画だな、と最近気がつきました。この映画は恋愛がメインプロットですが本当に素晴らしいよ。万…

安藤サクラすげぇなぁ 前半は完璧な映画 後半はスポ根で二度おいしいけど音楽が邪魔してる 武 正晴:百円の恋

太ったブスからシュッとしたボクサーへと変わる様が本編の白眉。人間の変化をセリフで説明せずに体型や表情で表現するってのはまさに役者の仕事でしょう。尊敬します。この人は底辺っぽい女性の演技がほんとうにうまいわー。っていうかなんでもうまいのか。…

いかにしてキッチュでダサいおじさん的なものから身をかわすか 長久允:ウィーアーリトルゾンビーズ

一つの作品としても、そしてこれからの邦画への影響力を考慮しても、めちゃめちゃいい映画だったと思います。個人的にはシン・ゴジラ以来の大ヒットやで!「カメラを止めるな!」が一の矢だとしたらこの「ウィーアーリトルゾンビーズ」が二の矢かもしれませ…

リンチ作品にしかないものが確実にあるんだけど、それが何かはわからないの デヴィッド・リンチ:ブルーベルベット

若い男の子が息子と夫を人質に取られているメンヘラエロおばさんとエロいことになってしまい、最終的に事件を解決する話です。リンチの中ではかなり観やすい部類の作品だとおもう。ストーリーを普通に追っていけばわかる造りになってます。時系列シャッフル…

ダメ人間の見本市 筒井康隆:家族八景

突然ですが、わたしはダメな人間を見たり聞いたりすることが好きです。 ダメ人間のことを考えるだけでわくわくします。自分がダメなのでダメな人がいると共感します。わたしのダメな人間のなかで好みのタイプは、自分同じタイプである怠惰で人間ぎらいな性悪…

ミニマルなのはいいことだ もっと日本に来てください The XX:xx

ポスト・ポップ、インディー・ポップ、ポスト・ロック、どれが正しいのかわからないけど、The XXは本当にいいバンドです。音楽のジャンル分けってようわからん。 雑誌の編集者が勝手に決めている気がしてならない。 編成が独特で、ツインボーカルの男女がそ…

天才作家の渾身の一撃 町田康:告白

平成に刊行された小説の中でも間違いなくトップ10に入るであろう大傑作。 谷崎潤一郎賞受賞。「朝日新聞平成の三十冊」で3位。 分厚いからみんな読まないのかなぁ。超面白いのに。好きでたまらない。本作は日本の近代小説の金字塔です。ゼロ年代は海辺のカ…