尾見怜:五〇九号分室

小説・映画・音楽の感想

日本のSF小説はほんとうにおもしろい。 伊藤計劃:虐殺器官

 

 

天才の所業です。

 


日本のSF小説の潮流を変えてしまう程の魅力を持った作品です。はてな民の方には釈迦に説法の気がしますけど、ほんとうにすきなんです。許してください。
このブログも著者の映画ブログ『第弐位相』に影響を受けて始めたものです。(このブログより千倍おもしろいよ)
伊藤計劃はわたしの人生にむちゃくちゃ影響を与えた人で、小説を書き始めるきっかけとなった人でもあります。

 

舞台は近未来のアメリカ。米軍兵士であるクラヴィス・シェパード大尉は特殊検索群i分隊という、暗殺が任務の部隊に所属している。母の死や世界に頻発する独裁者による自国民の虐殺、メンタルケアの発達により子供を殺しても何も感じない自らの心、など様々な頭痛の種を抱えつつ、虐殺が起きる地域に必ず姿を現すアメリカ人、ジョン・ポールを捕らえるためにクラヴィスは今日も頑張る。心に蓋をしつつ……
みたいなあらすじです。
文体は作者も公言しておりますが黒丸尚の翻訳調にかなり影響を受けています。ギブスンとかスターリングでしょうな。
ルビ振りまくり。ここで海外SFを呼んだことが無い人は若干の違和感を覚えるけども我慢。


SFやハードボイルドに合う乾いた印象です。黒丸さんの訳でいちばんすきなのは、ニューロマンサーで作品のコアとなるAIのなまえ”winter mute”を、『冬寂』と訳したとこですかね。HUNTER×HUNTER感先取り。粋だね!"
わたしが最も評価するところは人文哲学(カフカ)、社会学(経済、歴史)、科学(生物学、言語学)大衆文化(モンティパイソンや映画、頭文字D))
教養としてほしいところ全部網羅しているところでございます。いわゆる知的好奇心が性感帯の人はもれなく絶頂するのです。(別に嘘でも構わない)
はっきり言ってね、日本の文学はその他の学問に弱い。あまりにも情緒的に過ぎる。エンタメや表現に振りすぎている。
総合的な教養を摂取できるのは村上龍京極夏彦ぐらいです。

そんなおもしろ知識小説であるにもかかわらず、戦闘描写は抜群。エンタメとしても素晴らしすぎる出来なのです!!!
シネフィルである作者特有のバランス感覚なんでしょうね。

 


欠点としては、筒井さんも指摘していた部分で、メインアイディアである「虐殺器官」そのものの根拠が薄い。おそらくチャック・パラニュークの「ララバイ」が元ネタでしょうが。そこさえ目をつぶれば、まあ良くできた小説です。100点満点中99点。これ以上無いくらい。

あ、映画は全体的に微妙でした(脚本における情報量のコントロールが難しかったね)が、インドでの市街戦でドローンを使った戦闘シーンは素晴らしい。ていうかこういうテクノロジーでやんちゃした市街戦もっと見たいよ。ブレードランナー2049でラブちゃんが使ってたドローン空爆とかさぁ。中国映画が先にやっちゃうかもよ?メタルギアの映画で観れるのかしら。
サー・リドリー・スコットブラックホークダウンにUAV使ったらこうなる。

トランプ大統領の出現を予言しているような作品です。ほぼ就任と同じタイミングで映画化したので本当にびっくりしました。湾岸戦争、9.11、イラク派兵、トランプはひとつなぎのワンピースですね。

 

 

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

 表紙は前のデザインが良かったなあ。(神林しおり感)

唯一無二のメンヘラヒップホップ:Portishead:Dummy

ヒップホップが秘める多用性に唖然とする大傑作。

スーパーダウナー系。寝る前に是非。

わたしのヒップホップにもつステレオタイプは、黒人のガタイのいいにーちゃんがエロいねーちゃんはべらして、キャップかぶってだぼだぼの服着て、
金ぴかのネックレスつけて、すげぇ自己主張を垂れ流しているイメージ。
違いますよ、ことPortisHeadに関しては!初聴きのときはたまげましたよ。

地味な恰好をした今にも自殺しそうな白人美女ベス・ギボンズが、か細いファルセットで過度に暗い歌詞を紡ぎます。ヒップホップなんだけどね。
本作は「スパイ映画のサントラ」というコンセプトだそうで、そんな感じはします。とはいえ全編暗い。暗い。絶望的に暗い。
聴くと音楽の用途が限られているんだけど、内向、内省的な人はおしなべてハマると思います。

個人的にいちばんよかったのは#8「Roads」ですかね。歌ものとして素晴らしい。色っぽいよ。
一般的には#2「Sour Times」(タランティーノが使いそう)#11「Glory Box」(ギターかっこいい) が名曲とされてる感じでしょうか。

アルバムの全体的なイメージとしては、メンヘラの美女が雨の中で泣きながら夜のロンドンをふらふら歩いている感じでしょうか。徐々にテンポが遅くなっていくのも死を匂わせてて不吉。
そんな世界観に引きずり込まれるようなサウンド
音の数はかなりミニマルで、またそこらへんも好みなんだよなー。似てるアルバムが見つからなくて個人的に替えが無いアルバムです。一生聴くと思います。
トリップホップ」というジャンルが示す通り、通しで聴いていると下向きのベクトルでトリップできますよ。退廃的な雰囲気がなんともよござんす。

あとジャケットがこわい。こんなアルバムを作るイギリスと言う国がこわい。これが売れるのもこわい。


Portishead - Roads


髪ボサボサで未亡人みたいな色気。

日本の自称メンヘラ女子はこれを聴いて気分高めて欲しい。

 

 

dummy

dummy

 

 

 

 

ポーカー映画ではフルハウスもっててもオールインしてはいけない シャツの着替えも用意しとこう マーティン・キャンベル:007 カジノ・ロワイヤル

ポーカーとスパイ映画好きとして時々見返したくなる映画。
カジノロワイヤルは原作でも第一作なので007のエッセンスが凝縮されてますな。
偉大なるマンネリズムといか、まだやってんの?と言われてもしょうがないシリーズなんだけども。もうやることないでしょう。アストンマーチンの新作を観に行くというのもありだな。ボンドカーがEVになるとものすごい静かなカーチェイスになりそうで見てみたい。カーチェイスの魅力って3割くらいエンジン音だと思っているので。"
イアン・フレミングはもうとっくに亡くなっているので、007はドラえもんとかクレヨンしんちゃんに近いかもしれませんね。新作作成中(2019年3月現在)ということなので不安9割、期待1割ってかんじ。

テキサスホールデムのテーブルで、扱うお金が10万ドル以上になるとチップじゃなくてプラスチックのカードになるんですね。

AKフルハウスにJクアッドで勝っちゃうなんてポーカー上手いというか只の剛運なル・シッフル。顔も微妙になさけなくていい感じ。

オールイン勝負で負けたら立ち直れないのがふつうだけど、
われらがボンドは国にもCIAにもタカることができるヒモ体質。負けた後も一通りアクションをこなし、人を3人ほど殺した後CIAと手を結び、
毒を盛られ、ゲロを吐き、自分で自分にAEDをし、どんなに危機があってもシャツを着替えてテーブルに戻ってくるのがかっこいい。正直どれだけ負けても、殺されかけてもテーブルに座り続けて敵をにらみつけるダニエルクレイグを観るための映画なんでしょう。イギリスはボクシングの国ですから、そういうタフさがもてはやされた時代の作品なのねん。ほんとにかっこいいのよ。

どんなにしんどくても音をあげないのがイギリス流。ダイ・ハードマクレーンは見習え。あれはあれで笑えるけど。

ラストの舞台をヴェネチアにしたのはさすが超大作。画が素晴らしくて、かつ水責めが出来るのでバトルにも最適というロケーション。車使えないけどね。

ポーカー映画ではフルハウスもっててもオールインしてはいけない。それは別のポーカー映画マッドデイモンがめちゃ若いラウンダーズでもそうです。


第3幕のヴェネチアはまあ、ポーカーのシーンほど面白くは無いです。普通のスパイ映画のプロットに戻るだけなので。ただロケ地がすばらしいので、銃撃戦と水責めを楽しんでおわりかな。
ヴェネチアが舞台の作品では本作とジョジョ5部がおすすめ。


もっとポーカー映画増えて欲しいですね。ギャンブル強い男はかっこいいです。


藤原正彦「国家の教養」読んだらやっぱすごかった

国家の品格」も良かったけどこの人はユーモアの大事さを分かっていていいなぁ。イギリスで働いたことがある人はなんか一味違いますね。ボンドのユーモアはイーサン・ハントのそれより好みです。
近代的合理精神に心身ともにやられている人たちはみんな読もう。
個人的に先進国ではイギリス>>北欧>>イタリア・ドイツ>>>>フランス>>>>>>アメリカ (カナダはようわからん)が好きですね。文化的にも政治的にも。
アメリカは比較的若い国っていうハンデもありますが。

 

カジノ・ロワイヤル (字幕版)
 

 

静のドンパチ映画、主役はもちろん映像、時々デルトロの顔  ドゥニ・ヴィルヌーヴ:ボーダーライン(原題SICARIO)

 

邦題ダサくするの勘弁してくれ……

 
この映画はとにかく映像がきれいです。ドゥニ・ヴィルヌーヴは空軍基地をきれいに撮る名人ですね。
というか、空軍基地というものがそもそも美しいのかもしれません。抜け感が半端ないので気持ちがいい。

庵野だったりガイリッチーだったりどうしてもカット割りのテンポが速い監督がすきな私ですが、対極と言ってもいいヴィルヌーヴ黒沢清相米慎二みたいな画面をあまり動かさないゆったりした監督も好きです。
映画はある程度演出が極端であってほしいですね。別世界に連れてってくれるのが魅力ですから。
ただ、画が平凡だったりするとあっという間に飽きてしまうので、ゆったりしたテンポでいい映画といのはあんまないよね、ということ。

この映画はかなり完璧に近いです。テーマの関係上メキシコをめたくそに言い過ぎですがw(今はもっと平和だと思いますよ)
メヒコの麻薬カルテルアメリカの各組織のはなし。主人公はFBIの女性でエミリー・ブラント。この人は地味な格好してもきれいですね。むしろ地味な方がいいですね。
メリーポピンズでケバい格好しているのがもったいないくらい。メリーポピンズの格好がイギリスのオールドミスみたいな恰好だから個人的にはまらないんかな?クリスティの小説で真っ先に殺されそうな感じ。

デルトロはいつ見ても顔が最高ですね!エミリーと並ばせれば何秒でも見れるぞ!

 

序盤のシーン、メキシコに近いカンザス州の誘拐犯のアジトにSWATが突っ込むシーンがあるのですが、
服が黒い、車も黒いので、全体的に明るい色合いの画面の中でめちゃめちゃ浮きます。地面も白っぽい砂、白い土壁、青い空、その中にまっくろのSWAT。画的にすごいかっこよくて見やすいんだけど、
視認性高すぎない? 特殊部隊なのにそんな目立っていいの? この映画もしかして全然ダメなのでは……とか考えてたのは杞憂でした。

f:id:omisatoshi:20190221150835j:plain


なぜならこの映画は、SWATに所属しているエミリーブラントが対麻薬カルテル特殊部隊の中で浮いて浮いて浮きまくる映画なのです。だからこのファーストシーンはものすごく正しいのです。
SWATはFBIです。ネタバレですが、対麻薬カルテル特殊部隊の構成メンバーはCIA、コロンビアの別カルテルのメンバー、あとは軍です。
アメリカの警察・軍・情報機関はそれぞれミッションも性格も違うので、ある程度分かっていないと難しいですが、
まあ全く違う組織であるということを理解していれば良しなのかしら。(自分も対して知りません。日本の警察庁と警視庁の違いを最近まで知らなかったし)
そこらへんの組織オタクはそれはそれですごいんでしょうね。グリーンベレーとデルタフォースって何が違うのん?

ともあれファーストシーンからずっと、麻薬カルテルという価値観が全く違う敵、それに対抗するアメリカ側の組織もめちゃくちゃな奴ら、
エミリーブラントは無力感の塊……
基本この映画のざっくりした構造は、状況もつかめてないのにやばい奴らとドンパチ → エミリー役に立たない、価値観の違いにドン引き → 打ちひしがれて煙草を吸う(禁煙中なのに)という3つのパターンを繰り返すものです。
イライラしている美人のおばさんと美しい風景を見てる時間が結構長いです。その繰り返しがマジ楽しい。演出うまいから飽きない。

テンポは他のヴィルヌーヴ作品と一緒でかなりテンポ遅いのでそこらへんは注意。笑えるところもそんなにないです。
心の隙を裏切者につかれてすぐに心と股を開いてしまうエミリーはちょろくてかわいい。

とにかく画面の美しさを観ましょう。ここまできれいな映像を撮る監督はなかなかおらんよ。欲を言えばちょっと笑わせてほしい。

 

 

ボーダーライン(字幕版)
 

 

倦怠と退廃の匂いが無いリゾートなんてナンセンス METRONOMY:The English Riviera

METRONOMYだったらこれでしょう。前作の「Nights Out」も悪くはないけども。近似アーティストとしてゆらゆら帝国か。

とにかくアンニュイなアルバムですが、リズムはばっちりのれます。それもドラムとベースが安定している為。スカスカでもいい、気持ちが良ければ。
今までこのバンドは打ちこみメインだったのがこのアルバムからベースとドラムが人力になりました。ルックスも死ぬほど冴えなかったのに、伊達男と美女が入ってかなりリア充よりに。
やっぱり生音だと雰囲気変わりますね。ファルセットのコーラスが目立つバンドなので、低音域がしっかりしていると曲としての推進力が違ってくる。
変わり種バンドだったのが魅力そのままに安定したという感じでしょうか。オタク臭い鍵盤の凝り方は前作よりひかえめか。印象的なリフを繰り返すパターンが多いですね。
とはいえ歌ものが多いので聴きやすい。加入したドラマーのアンナ・プリオールがまただるい感じで歌うのでそれもまたよし。

どんな時に聴くかというと、私は別にハレでもケでもない精神が無風状態の時に聴きます。テンポが速いわけでも遅いわけでもないので。
イメージはジャケットからも想像できますが、さびれたヨーロッパあたりのリゾート。カリフォルニアのガワだけをパクりましたみたいな。熱海でも最悪可。

全曲いいんだけど、まあ一番いいのは#7「THE BAY」でしょうか。気持ちいいベースリフですね。オクターブ奏法はこのへんなバンドに合う。
歌詞もなかなか抽象的で魅力たっぷりです。2014のサマソニでも聴いたことがあるのですが、ベーシストのベンガ・アデレカンが良すぎてビビりました。
ベーシストの理想は黒人に確定。踊ってるついでに弾いてるみたいでした。日本人共よ俺を見ろ!って感じ。白人やアジア人じゃ無理だな……あのリズム感はすごい。逸材。
また東京にきてくださいよ……

 

 

 

Because this isn’t Paris
ここはパリじゃないし
And this isn’t London
ロンドンでもないよ
And it’s not Berlin
ベルリンではないし
And it’s not Hong Kong Not Tokyo
香港でもない 東京でもない
If you want to go
君がどこかに行きたくても
I’ll take you back one day
いずれあなたを連れ戻す
It feels so good in the bay
それはとてもいい入り江
It feels so good in the bay
とても気持ちいい入り江

 

 

ほんと怪しくていいっすね!要は人でごった返している大都市ではないということでしょうね。イメージはイギリスの南東海岸だそうですが。
バカンスで一度来てしまったら、その魅力には抗えないって感じかえ。行ってみたい。
この歌詞はすごく好きです。どこか世にも奇妙な物語を連想させる。あるいはSF。またはホラー?

ホテルとカジノとビーチがあって人が少ないって最高ですよね。観光地には行きたくないのにホテルに泊まりたいジレンマを私はどうすればいいのか。
南仏あたりか?だれかおすすめのさびれたリゾート教えてください。これ聴きながらボケっとしたいのよ。

 

 

THE ENGLISH RIVIERA

THE ENGLISH RIVIERA

 

 

 

黒潰れ、群像劇構造、良翻訳、音楽、すべてのピースがはまった大傑作  ガイ・リッチー:ロックストック&トゥースモーキングバレルズ

映画における画面の黒潰れを愛している。常に画面の20%くらいはつぶれていてほしい。
そんな黒潰れフェチの変態御用達なのが、フィルム・ノワールの映画群、リドスコフィンチャー、そして本作です。
単に明るいのがきらい。黒目の色がうすい、とか日光が苦手、とかそこらへんの特性を持つ人は本作の暗い画面作りに無意識的な好感を持つとおもいますよ。

さらにプラスしてミュージックビデオ出身の監督だと尚最高。音楽の入れ方やチョイスがイカしていて画面が暗ければ、
中身がどうであれ、好きな味付けなんだから素材がなんだろうとどうでもいいのです。(極論)
次作のスナッチでは、音楽がよりカッコよくなったけど、暗さとワントーン演出がなくなってしまってガッカリ。ロンドンを撮るなら色味をなくしてほしいなぁ。

初見ではこんなカッコよくて面白い映画があっていいのかとおもいました。日本のフォロワーはクドカンとか、あとバッカーノとかデュラララの人かな?群像劇やる人増えて欲しいねぇ。
ただ、映像のカッコよさに関しては日本人がひっくり返っても撮れない。今の明るすぎる邦画じゃ絶対に無理です。たそがれ清兵衛撮った山田洋二くらいかなぁ。(あの映画は色が少なくてよかった)
白黒に戻せばあるいは……
あとは押井守。ワントーン大好き。(でも最近のパトレイバーの実写版明るすぎるよ。アヴァロンくらい明度と彩度を落としてくれ……)
邦画はライティングがね……明るすぎるんだよね……あと清潔すぎ。(紀里谷和明は死ぬほど才能ないけど画作りだけは近いものがあるかも)
日本では画面が暗くて汚いと怒る人がいるのはなぜ。(大河の平清盛とか)
あと、彩度でいうと、あまりにも多彩でキッチュな色使いの映画(嫌われ松子の一生地獄でなぜ悪いなどなど)
は内容がよくても観るのがつらくなってくのがほんと悲しい。自分の眼の弱さを恨む。
自分は色弱気味なので常人より再度の低い世界をみているはずなのだが……むしろ色弱だからかな?
同じ監督の「告白」や「愛のむきだし」は色味がタイトでむしろ大好きなんですけどねー。

さらにプラスして、この映画の構造は個人的に革命的でした。キャラクタが何十人も出てきて、キーアイテムは銃、金、麻薬。キーアイテムが様々なキャラクタへ様々な方法で移動します。ギャンブル、売買、盗難、偶然拾うなど。好き勝手回ってた歯車が少しづつ近づいて、かみ合うタイミングが最高です。

スターウォーズで形が定まり、パルプフィクション以後なんでもありになった感がでてきた大衆映画脚本ですが、
ここまで軽く、複雑にしといて面白いのはすごい。
テンポがいいし、構図もいいし、カメラも遊んでんのかってくらい動くし。最高の映画だよ。

個人的にオチもスナッチよりいいですね。名作中の名作ですが、メインビジュアルが地味なので、扱いが悪いよね。
ジェイソン・ステイサムのデビュー作なのにね。


あとガイ・リッチーは決定的な弱点として女性を撮るのがヘタクソです。一度マドンナと結婚したあたりから察するに、
そこら辺の美的感覚がイカれているのでしょう。
本作では福本伸行作品並みに女性が出てきません。でもそれでいいのです。
この人が上手いのは、バカなチンピラがはしゃいだり酷い目にあったりするのをスタイリッシュに撮ることなのです。(日本でいうと林海象石井岳龍、あと宮藤官九郎脚本作品とか?)
えてしてホモソーシャル。VIVALAホモソーシャル。きらら系アニメも性別を変えただけで実は近かったり。

同じような特性を持つ人としてジョージ・ルーカスナタリー・ポートマンをあれだけ活かせない監督は逆にすごい。エピソードⅡの恋愛シーン、
見てらんないくらい下手でしたね。とりあえず話の流れ上、やらなきゃいけないのでやりました、というのが丸見え。
ガイ・リッチーとルーカスの差は特殊効果の使い方。キング・アーサーほんと酷かった……

あとびっくりするぐらい字幕がいいです。翻訳調チンピラ語って感じですかね。切れの良さを感じます。
岡田壮平さんってかたですが、ほかにも「レオン」「ショーシャンクの空に」もやってるみたい。一押しです。なっちも嫌いではないですが。

 

 

 

 

情報量の暴力 大混乱を楽しめる素質を磨け  トマス・ピンチョン:競売ナンバー49の叫び

ピンチョンはね……文学をかじろうとする人間にとっては憧れなんですわ。
二十歳なりたてなのに度数高い酒を飲んでみるとか、アマチュア登山家のくせにスポンサー集めてエベレスト挑んじゃうとか。
結果は無残です。難解すぎて読めるわけない。似たような作家にグレッグ・イーガン小栗虫太郎がおります。
この三人のなかならピンチョンが一番マシかな……リーダビリティをある程度気にしているという意味では。
本作はさらに、ピンチョンの中で一番とっつきやすいです。物語の構造がはっきりしている。主人公も一貫している。次に読みやすいのはLAヴァイスかなぁ。
言っとくけどわたしもニワカだからな!期待しないでね!

自分が物語に対して持っている回路とはぜんぜん違うものを積極的に取り入れていくと、よくわかんないけどたのしいよ。最初の拒否反応もふくめて。
同じジャンルに凝り続けるのもいいけどさ。
でもまじめに読みすぎるのも禁物。泥沼とはこのことです。ピンチョンはニヤニヤ笑っているでしょう。
巻末にある翻訳者の60ページにのぼるすさまじい量の訳注も、ピンチョン考察病末期患者のカルテとして読めます。
わからない言葉をわかりやすくするのが訳注だろ!もっと難しくしてどうする!佐藤さん、あなたつかれてるのよ。

あとあきらかに笑かそうとしてます。ピンチョンには芸者の心が少なからずあります。脈絡なさ過ぎてわらえない、ふって落としてが笑いの基本や!というのもわかりますけど、
そこはもうピンチョンいい加減にしろ!

とか、

さっきからなにを長々と言ってるんだ!

とか、

ずっと意味わからんぞ!
という慈愛に満ちた突っ込みを入れながら読みましょう。

いずれピンチョンが文学のスタンダードになる時が来る気がしますし慣れておこうね。

 

この作品はエディパ・マースという若妻が、昔付き合ってた大富豪が死んだという連絡をもらうところから始まります。なにやらあたし遺産相続人に指名されたらしい。どういうこと?という導入。
そっからもうカオスです。その大富豪が何をしてきたのか、調べていくうちに大富豪の背後にある謎の組織、「トリステロ」の存在が浮かび上がります。
それは今や確立されたアメリカの郵便システムの前にあった、16世紀ヨーロッパ由来の地下郵便組織だった……そいつらは今も、匿名の通信を闇の中でやり取りしているのだ……
偽造切手、ラッパのマーク、「WASTE」の文字、トリステロの名が出てくる戯曲「急使の悲劇」、唐突な物理学用語マックスウェルの悪魔……
様々なシンボリックな意匠がこれでもかと表れるのだけども、組織や大富豪の真実は見えてきそうで見えてこない。手がかりを追えば、次の手掛かりが表れる。
それが複雑に絡み合い整理が次第に難しくなっていく。夫の様子もおかしくなってきた。エディパの世界はもはや収拾つかない。
情報量が個人の域を超えて、ほぼ狂人(パラノイア)となったエディパはどうなるのか?
大混乱の中唐突に迎えるラストシーンで、あなたはロットナンバー49の叫びをエディパとともに聴くのだ。

 

 

うん……

 

 

は?

 

 

 

わかってるよ、ピンチョンはあらすじを語ることさえゆるしません。

というのも、現代はポスト・トゥルースの時代と言われております。何が本当なのかわからん。科学も何やら怪しいぞ、量子力学は人間の直観的にわけわからんし。
マスコミは構造がレガシー過ぎていわずもがな。
今まで盲目的に信じてきた資本主義もリーマン・ショックであぼん。歴史も教科書もあてにならない。いつのまにやら聖徳太子もいなくなるかもだし。
"なにもかもが都市伝説や陰謀論レベルに信ぴょう性が無くなってる!箱の中に猫を入れてみたはいいけども、猫が生きているか死んでいるのかさえ確定しないのだ。
わたしたち何を信じればいいのん!
それをずっと茶化し続けていたのがピンチョンです。エビデンスのない情報が浮遊する浮世に酔っぱらえおまえら、と。
大きな物語」がぶっ壊れたのをいいことに、2000年代のハルヒに代表されるセカイ系の自意識過剰も根拠なしな万能感を持つティーンにはたのしいけど、あいにくいまの世界は貴様一人の気持ちで変わるほどの情報量ではない。
2次系のカオスの中で、真偽不明、予測不能な量子の動きが今まで見たことのない表現でもって背後からぶんなぐってくる。
スピルバーグガンダムメカゴジラを戦わせる未来があっという間に実現して、あっという間に陳腐化している現在。なんちゅうことだ。
もうかんがえることをやめて、ふざけたおすしかない。うへへ。

町田康がピンチョン好きなのもわかりますね。あのひともどこまで文学をぶっ壊していいのか、というのを模索しているひとなので。
この世の99%がしょうもない、ということに気づいているひとが作るものは冷めていておもしろい。

新潮の全集は全部表紙カッコよすぎ。高いのに集めたくなるから勘弁して。ていうか集めつつある。破産が近いぞよ。

 

競売ナンバー49の叫び (Thomas Pynchon Complete Collection)

競売ナンバー49の叫び (Thomas Pynchon Complete Collection)